<連載>学習塾のデジタル化 第2回 「今できていない業務」のICT化は難しい 小さく始めて大きく育てるDX
学びの場の価値を高めるプラットフォームを提供する、
FLENS(フレンズ)株式会社の社長・大生 隆洋のコラムです。
ICTを活用し、教育の新たな価値を生み出すことに挑む、その想いを語っていきます。
ICTシステム導入を進める際に大切なことは、今できていない事がICTシステム導入ですぐにできるようになると過度に期待しないことです。
よくある話ですが、ICTシステム導入の検討を行う際に、「今はできていない業務」がICTシステム導入で一気にできるようにしたいと様々な部署が要望し、夢を膨らませたプロジェクトが3年経っても要件が固まらず、ベンダーからの高額な見積もりにどうやったらコストを抑えられるかの議論に終始し、結局やりたいことはなかなか実現できず、そして、要望を取りまとめる担当者が変わったり、重視することが変わったりで仕様変更・仕様削減を繰り返し、結局、最小限の導入にとどまることや白紙に戻るという話は多く聞きます。
このようなことから「今できていない業務」のICTシステムを開発・導入することの難易度はかなり高いと言えます。
ICTシステム導入検討で大切なのは、現在の業務の中で、時間が短縮されたり、業務にかかわる人数を減らせたり、ミスを軽減できたりなど、具体的な効果が期待できる領域を優先させることだと考えます。導入効果が具体的に見積ることができると、費用をどの程度かけるべきかが経営判断できます。
各校舎からの報告書回収システム導入プロジェクトの失敗事例をご紹介します。
その学習塾では、そもそも検討時点では校舎からの報告書はなかったのですが、ICTシステムを導入することで校舎からの報告をタイムリーに集約して、すぐにマネージャーが校舎にアドバイスできるようにICTシステム導入が経営から示されました。何を報告するかの知見がないまま必要そうな項目の入力フォームの仕様が検討されます。いつ、だれが、どのくらいの時間で入力するか、実際のイメージがない状態で仕様検討が進みます。
回収された情報をマネージャーがどのように・どのくらいの頻度で活用するかの具体的なイメージも成功事例もないまま、データを一元管理・閲覧できるダッシュボードが必要といった要望が出ます。そして見積もりを見て、現実に引き戻されて、ここはいらない、ここは絶対必要などと意見集約ができず混沌とし、校舎やマネージャーにヒアリングすると報告を書く時間はない、報告して意味あるのか、こんな場合はどうすればいいのかというような反対意見や不安が噴出して、結局プロジェクトが頓挫してしまいました。
これは、「今やっていない業務」の各校舎からの報告をICTシステム導入で一気に進めようとしたことが原因です。
まずは、紙などの報告書で運営を行い、報告項目や頻度、活用方法などノウハウを十分に積むことが大切です。実際に運用していれば、業務の無駄や有効な活用法など具体的に改善が進みます。アドバイスするマネージャーもどの情報がどの粒度で見ることができると適切に活用できるかといったノウハウが蓄積されます。
また、見栄えの良いダッシュボードのような固定化したものではなく、Excel などでデータ加工しやすい形式の方が進化に貢献します。
つまり、ICTシステムを導入する際は、できる限り小さく始めることが大切です。
小さくとは、開発に時間がかからない紙やExcel 等を含みます。また一部の校舎や一部の講師などで試してみるのもいいでしょう。そして検討も大切ですが、できるだけ早く始めた方が試行錯誤により早く精度が上がります。
徐々に紙やExcel をツールに変えたり、一部校舎で実践していた運用を全体に広げたりしながら、その業務が成果につながることを全社で共通認識にします。
次に、ようやくこの業務に相当な時間と人手がかかっていることが課題になり、ICTシステムで効率化しましょうという流れが、成功確率が上がる方法だと考えます。
小さく始めて試行錯誤により業務の精度を高めることを、どのくらいのスピードでできるかが、企業の成長力に直結すると考えます。現在は、様々なサービスがSaaSで提供されているので、試行錯誤がかなりしやすい環境になっています。