「切磋琢磨」「競争」「努力」という成長の原点を見つめ直したICT活用を
学びの場の価値を高めるプラットフォームを提供する、
FLENS(フレンズ)株式会社の社長・大生 隆洋のコラムです。
ICTを活用し、教育の新たな価値を生み出すことに挑む、その想いを語っていきます。
●今年1月にある雑誌に寄稿した記事をブログにも掲載させて頂きます。
2010年1月27日10時、スティーブ・ジョブズ氏によって、新カテゴリのデバイスiPadが発表された。この発表を聞いた当時、私は前職の学習塾で勤務しており、「タブレットが教育界で革新的なツールとなり得る」と直感した。それからちょうど5年。このようなタイミングで寄稿する機会を頂いたので、振り返りながら学習塾での今後のICT活用について考えてみたい。
2010年は教育ICT化の起点となる年であった。1月のジョブズ氏の発表に始まり、日本では、5月にDiTT(デジタル教科書教材協議会)が発足した。総務省における「フューチャースクール推進事業」が2010年度から4年計画で全国20校で開始され、教育分野のICT利活用を推進するために、全児童生徒1人1台のタブレットPC、全ての普通教室に電子黒板の配備、無線LAN環境、クラウド技術の活用等による環境を構築し、技術面の実証研究を実施しガイドラインの作成を目指した。文科省における「学びのイノベーション事業」も、2011年度から3年計画で開始され、主体的に学習する新たな学びの創造を目指し、デジタル教科書・教材や指導方法の開発、効果・影響の検証を目的とした。そして2014年に総務省・文科省からのガイドライン・報告書がそれぞれ発表され、約8割の生徒が全期間を通じて、授業について肯定的に評価し、また、全国学力・学習状況調査では、「コンピュータや電子黒板を使った授業は分かりやすい」「本やインターネットを使ってグループで調べる活動をよく行っている」という回答が、実証校で全国より高い数値となった。
これらを受け、教育環境のICT化が推進される計画になっており、2020年までに小中学校の児童生徒1人に1台のタブレット端末等の配備、電子教科書の導入を目標に掲げている。
公教育以外では、2012年11月には、ジャストシステム社の専用タブレットを使ったスマイルゼミが開講し、2013年4月からベネッセコーポレーション社の進研ゼミ中1講座にタブレットが副教材として登場、通信教育でのICT活用が一気に加速したのは記憶に新しい。最近では、スマホの普及により個人向けの学習アプリが無料や低額で提供され、世間を賑わしている。
このように学校、通信教育、個人向け学習アプリ分野などでICT活用が進んでいる一方で、学習塾では一部でタブレットの導入・活用の例があるものの明確な方向性はまだ定まっていないように思われる。
2010年のあの直感から5年が経ち、弊社のサービス提供を通じて実感することは、学習塾におけるICTの活用を考えるとき、自らの存在意義について考える必要があるように思う。学習塾には、学校より分かりやすい授業、自分のレベルに合った授業を受けられる環境、分からないことを質問できる環境などがあるが、これらは教育のICT化により、学校や家庭でも今後簡単に提供される可能性がある。つまり、学習塾ならではの、学習塾しかできない価値を提供していかなければ、存在意義そのものを問われる時代に入ってきているのではないだろうか。
学習塾は、学校や地域・全国で競い合い、友達から刺激を受け、目標を明確に持ち、努力の大切さを体験を通じ伝えるという、ここ30年で公教育で避けられてきた「切磋琢磨」「競争」「努力」に真正面に向き合い取り組むことで、業界として成長してきたと私は思う。
成長の原点を見つめ直し、学習塾でしか作り出せない価値を、ICTという新たな環境を活用して提供することで、社会的役割を担い、業界として更なる発展を目指せると確信している。